記録と随想 35――『マックス・ウェーバー研究総括』脱稿 (謹告、ならびに概要と内容目次のご紹介) (7月5日)
長らくご無沙汰しました。
去る5月中葉、懸案の『マックス・ヴェーバー研究総括』を、ようやく脱稿しました。
版元では、「前著『東大闘争総括――戦後責任・ヴェーバー研究・現場実践』(2019年1月18日、未來社刊)の姉妹篇として、2020年のマックス・ヴェーバー没後100周年にも上梓したい」という希望を容れて、待機してくださっていたのですが、もっぱら小生側の事情で、遅延を余儀なくされ、まことに申しわけありませんでした。
早速、いつもどおりスピーディに編集を進め、近々上梓の予定と聞いています。
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新著の概要と内容目次を、下記にご紹介します。
マックス・ヴェーバー研究総括――[副題を付けるとすれば]三主著『科学論集』『経済と社会』『宗教社会学論集』の相互補完的読解による全体像構成、とくに「比較歴史社会学」の方法定礎と例解
概要
マックス・ヴェーバー(1864-1920)の生き方と学問を、わたしたち自身の時代状況のなかで捉え、国際論争も含む議論の活性化、フェアで明晰な作風、論争-論証文化と責任倫理の形成、などに活かしながら、個人の自律と社会の民主化をめざす。
研究内容としては、三主著 (『科学論集』『経済と社会』『宗教社会学論集』) のうち、遺稿『経済と社会』のテクスト編纂を問い直し、初~五版の「二部構成」を「合わない頭をつけたトルソ」、現行の『全集』版を「そもそも頭のない五死屍片」として、文献実証的に批判。本来の「頭」を冠する『経済と社会』「旧稿」の体系的再構成-再編纂を提唱。そのうえで、三主著の相互補完的-総合的読解により、「 (後期) ヴェーバーの全体像」を素描し、「西欧近代文化」総体の批判構想として捉え返し、その方法を「比較歴史社会学」として定礎-例解。
ヴェーバー本人は、当の構想を実現しつつあるさなか、おそらくは「スペイン風邪」に罹患し、56歳の働き盛りで早世したが、2020年の没後100年にあたり、かれの到達限界を、遺作「世界宗教の経済倫理」シリーズ (「ヒンドゥー教と仏教」「儒教と道教」「古代ユダヤ教」) の総合的読解をとおして具体的に究明。
そうすることで、「社会学」と「歴史諸科学」 (宗教史、政治史、法制史、経済史などの連字符文化諸史学)との間に、相互交流の関係を開き、「比較歴史社会学」の批判的継承と新世界像の構成にそなえる。
内容目次
プロローグ――マックス・ヴェーバーとの取り組み
§1.「ヴェーバーとの出会い」前後
§2. 大学教養課程の自由と「作風」形成
§3.「マルクス主義か、実存主義か」――時代思潮の双極対立の狭間で「難船者」の思想模索を開始
§4.「適正規模」の大学院と「1962-63年大管法闘争」――政治課題も「作風」に包摂
§5.「1968-69年東大闘争」――学内現場の争点 (学生処分問題) に「解明的理解」の方法を適用し、「事実と理」に即する解決を提唱
§6.「1969-73年解放連続シンポウム『闘争と学問』」――「大学闘争-全共闘運動」の問題点を総括し、新たな学問の諸規準を設定
§7. とくに「マルクス主義」的「全体知」「流出論」の克服に向けて
§8. 再開授業、「公開自主講座『人間-社会論』」および「寺小屋教室」におけるヴェーバー文献連続講読
Ⅰ.『経済と社会』の「二部構成」編纂問題
§9. 信頼して読める『宗教社会学論集』と、信憑性に問題のある『経済と社会』
§10.『経済と社会』初版の「二部構成」編纂事情
§11.「二部構成」編纂による「意図されない誤導」
§12. 第二次ヴィンケルマン編纂も「二部構成」を踏襲 (「合わない頭をつけたトルソ」)
§13. 第三次『マックス・ヴェーバー全集』版では「そもそも頭のない五死屍片」に解体
§14. テクストの整備が「全体像」構成の前提にして急務
Ⅱ.『経済と社会』「旧稿」編纂問題をめぐる国際論争
§15.「全体像」構成をめぐる1960-70年代の思想状況――ベンディクス著への米、独の反響
§16. テンブルックの問題提起――「作品史」研究に依拠して「『経済と社会』との訣別」を提唱
§17. 日高六郎の要請「本店-出店意識から脱却せよ」
§18.「訣別」から「再構成」へ――準拠標としてのテクスト内前後参照指示とその信憑性
§19. テンブルックのコロキウムと『ケルン社会学-社会心理学雑誌』への論文寄稿
§20.『全集』版編纂陣の「怪」
§21. シュルフターの「双頭説」提唱
§22. 京都シンポジウム――学問論争と即人的親睦
§23.『マックス・ヴェーバー研究』誌への寄稿――英語圏読者への問題提起
§24. モムゼンへの弔辞――学問論争と即人的礼節
§25.『全集』版「カテゴリー論文」側から「扇の要」を据える最終提案
§26.「旧稿」テクスト編纂への批判から「(後期ヴェーバーの) 全体像」構成へ
Ⅲ. 職歴と勤務から
§27. 名大就任講義「比較宗教社会学のパースペクティヴと欧米近代のエートス」
§28.「客観性論文」の「補訳」――古典教材の読解と研究に寄せて
§29. 併せて「翻訳のスタンス」を問う――初訳抹殺慣行への異議申し立て
§30.『科学論集』の再読――後期ヴェーバーは方法論的反省から新しい経験科学に向けて転出
§31. 名大最終講義「マックス・ヴェーバーにおける歴史と社会学」――「(後期ヴェーバーの) 全体像」素描
§32.「羽入書問題」――「学問の自由」の濫用を座視-黙認してはならない
Ⅳ. 歴史家との交流――「比較歴史社会学」に向けて
§33.「ヴェーバーにとって社会学とは何か」の問い返し
§34. ヴェーバー自身における歴史家との交流のスタンス
§35.「倫理論文」とその限界の突破――「西欧近代文化」総体の特性把握と因果帰属に向けて
§36. 人類史を貫く「人間協働生活」の類-類型概念とその決疑論体系――「普遍化」的「法則科学」としての「一般社会学」
§37.「日中社会学会」における国際交流――アジア論への視圏拡大とパラダイム変換の要請
§38.「世界宗教の経済倫理」シリーズ――「西欧近代文化」総体の「光と影」を「比較歴史社会学」的に究明
Ⅴ.「ヒンドゥー教と仏教」――「世界宗教の経済倫理」読解 (各論その1)
§39. マルクスの「インド村落共同体」論とヴェーバーによる批判
§40.「ヒンドゥー教と仏教」の問題設定と内容構成
§41.「カースト秩序」――閉鎖的出生「身分」の階層序列
§42.「カースト秩序」の「精神」――「輪廻-業」教理に媒介された「伝統主義」
§43. インド知識層の「世界像」構成
§44.「遁世的瞑想」――「救済追求」の軌道と到達点
§45.「カースト形成」の初期条件――波状征服による「人種」疎隔の簇生
§46.「血統カリスマ」と「手工業」の諸類型
§47.「地域間・種族間分業」から「カースト秩序」形成へ
§48.「政治ゲマインシャフト」における軍事力編成の諸階梯
§49. 西欧型発展と「カースト秩序」形成との分水嶺
§50.「カースト秩序」の因果帰属――普遍的諸要因の個性的布置連関
§51. 未来予知――「イギリス支配下の平和」の終焉と「印パ紛争」
§52. 後期ヒンドゥー教における「宗教改革」――「小市民」層の「救い主」崇拝と「信徒団」結成
Ⅵ.「儒教と道教」――「世界宗教の経済倫理」読解 (各論その2)
§53.「儒教と道教」の問題設定と内容構成
§54.「封建制」から「家産官僚制」へ――政治-支配構造の変動と「自由な知識人」の体制編入
§55. 家産官僚制と正統儒教との互酬-循環構造
§56.「天子」の「最高祭司」的・「皇帝教皇」的二重性格
§57. 資本主義的大経営の発展阻止――「氏族」による団体形成への拘束
§58. 正統儒教と異端道教との対抗的相補関係
§59. 未来予知――「農村から都市を包囲する」毛沢東型「中国革命」
§60.「現世適応」と「現世改造」――終章「儒教とピューリタニズム」における「理念型」的対比
§61. 文献使用上の注意――邦訳で読むときは原文を傍らに
§62.「ピューリタン禁欲」の「光と影」――原文に見る「二重予定説」の矛盾
Ⅶ. ヴェーバーの日本論――「比較歴史社会学」からの問題提起
§63. 長期にわたる「封建制」――「亀鑑的社会層」としての「武家」
§64.「浄土真宗」――ルターに先立つ「信仰宗教性」
§65.「明治開国」前後の宗教的「白紙状態」――頑強な「伝統主義」抵抗勢力の不在
Ⅷ.「古代ユダヤ教」――「世界宗教の経済倫理」読解 (各論その3)
§66.「古代ユダヤ教」の問題設定――「パーリア民形成」・「現世内合理主義」・「(神義論) 苦難の僕」
§67. 古代イスラエル宗教の歴史的展開舞台――先進二大文明の「間道-陸橋」かつ「砂漠-(山間) 荒野-(沿岸) 平場」漸移地帯
§68.「半遊牧的小家畜飼育者」層の社会構造と動態――「部族」形成と「氏族」群への分散傾向
§69.「礼拝戦士団」を結成した「部族」の対照的安定性とその発生事情――「唯物論」的説明の難点
§70. ヴェーバーの「理解社会学」的説明方針――じつは「社会科学方法論争」の一止揚形態
§71.「部族連合」から「都市王国」への政治-社会変動と、イスラエルにおける発展「不全」――ヤハウェ宗教の「反権力」特性
§72. 宗教発展とくに「神義論」の発展条件――「主知主義」と宗教領域への浸透
§73.「主知主義」の二類型 (「貴族的」と「小市民的-半プロレタリア的」) ――古代イスラエルにおける「知識層」形成
§74. 法集成の「精神」とその変遷――「法の神学化」と「政治-支配体制の神政政治的教権制化」
§75.「部族連合」期のヤハウェ崇拝――無神像礼拝と戦争狂騒道、破られない原生的自然主義
§76.「非軍事化」にともなう「戦争恍惚師」「先見者」の「脱呪術化」と「記述預言者」「レビびと」類型の登場
§77. 宗教革新-新文化創造の普遍的条件――辺境-後進地域における文化受容と、初発の「文化接触」にともなう「驚き」、「個々人自身の問いにもとづく思考展開」
§78.「捕囚」期における「預言」の変容 ⑴ ――エレミヤにおける神義論の展開と「新しい契約」
§79.「捕囚」期における「預言」の変容 ⑵ ――エゼキエルの「立ち位置」と「心意倫理と儀礼主義との併存」
§80.「捕囚」期における「預言」の変容 ⑶――「第二イザヤ」による神義論「苦難の僕」の創唱
エピローグ――ヴェーバー「比較歴史社会学」の継承と展開に寄せて
人名・事項索引